【こち亀】『部長のニヤニヤ生放送!?の巻』【SS】

『部長のニヤニヤ生放送!の巻』




葛飾区亀有公園前派出所
iPhoneで動画を視聴している両津勘吉



両津「〜♪」


中川「先輩、何聞いてるんですか?」


両津「あ?ぐるこさみんだよ?」


中川「『グルコサミン』?」


両津「歌い手だよ。歌い手。」


中川「なんですか?それ?」


本田「インターネットの動画配信サイトで歌を配信している素人さんの事ですよ!ほら、僕もこんなに…」




話に乗じ、手元のiPodの画面ををみせる 本田




中川「どれどれ…『ぐるこさみん』『黒飯』『ー(はいふんばー)』『goro』」

麗子「変わった名前の人が多いのねー」

両津「ネットのハンドルネームみたいなもんだ。
それに素人っていっても、その動画配信サイトがキッカケでデビューした奴もいる。
現にワシが聴いているぐるこさみんもCDを出しているし、ライブだってやってるんだ。」


中川「へぇー!すごい盛り上がりですね!」

両津「今のニヤニヤ動画では前に話したボーカロイドと歌い手。
この二つが二本柱となってる。
歌というジャンルで一括りされてるが、食い合う事もなく
むしろ共生しているような感じだな。クリエイター達の新しい活動の場と言っても過言ではない。」

中川「音楽の形も日々変わってるんですね。」



両津「路上ライブをネット上でやるような感じだな。
知名度が上がればデビューすることもある。」


本田「あの有名な音楽プロデューサーのヒョドインさんも元々このサイトで有名になったんですよ!」


麗子「え!ヒョドインって、あのアイドルグループ、
はだいろクローバーの!?」



両津「こういったサブカルに日本人は惜しげも無く金を使うからな。
ある意味、不景気に流されないビジネスと言っていいだろう。」


中川「…だからさっきから熱心に聴いていたのか。」


両津「しかし、ワシも『歌ってみた』動画を上げてはいるんだが、中々伸びなくてな。」

本田「前の 両津っぽいど 事件があってから、中々興味を示してくれる人もいないみたいですね。」

両津「所詮、オワコンなんだよ…ワシの声は。」

中川「会話の次元が違いすぎてついていけない…」



本田「他の歌い手さんとコラボとかしてみたらいいんじゃないですか?最近増えてますし」


両津「うーむ、生放送で呼びかけたりはしているんだがな。ワシみたいなオッサンとコラボしてくれる若い歌い手がいるとは到底思えん。
何か新しい手立てはないものか…」





部長「朝からなんだ。みんな集まって…」

中川「おはようございます!部長!」





部長「両津!!派出所内に私用のものを持ち込むなと何度言ったらわかるんだ!」


両津「わー!部長なにするんですか!! 」


両津の両耳のカナル式イヤホンを無理矢理引き抜く


両津「いちち…ひどいじゃないですか!部長!!」


部長「黙れ!だいたいお前は仕事をほったらかしてネットに更けて!そういう行動が近年の若者に影響を与えるんだ!

近頃はスマートフォンやパソコンの普及で人とのコミュニケーションが乏しくなっているというのに…

警察官であるお前がそれを助長してどうする!!!」


両津「ぐえええええっ!部長!はなじで!はなじでぇ!!」







その夜
大原邸



部長「なに!?大介が!?」

大原良子「何やらパソコンの前でブツブツ言いながら、誰かと会話しているみたいなのよ。」

部長「わかった。ワシがキチンと確認して、ネットの怖さというものを教えてやる。」






部長「大介!いいか!入るぞ!」


ガラガラ!


大介「ワッ!おじいちゃん!!」


部長「こんな時間にパソコンなんかして…一体誰と話しをしているんだ!」


大介「通話じゃないよ!ニヤニヤ生放送だよ!」

部長「なに?生放送?」

大介「ネットでのラジオみたいなものだよ。ほら、こうやってコメントで視聴者とやりとり出来るんだ!」

部長「大介が…ラジオを…?」

大介「せっかくだからリスナーのみんなに紹介するね!みんな!僕のおじいちゃんが部屋に凸してきたよ!」

部長「へ、トツって…?」

大介「ほら!おじいちゃん!みんなに挨拶して!」

部長「こ、こんにちは…大原大次郎
と…」


大介「わー!!本名は言わなくていいよ!!…そうだなぁ。僕が“だいちー”って名前だから、だいちーの爺で“だいじい”だね!」


部長「わしが…“だいじい”…?






…ど、どーも。だいじいでーす♪」




流れるコメント





クソワロタwww
だいじいカワユス(*´Д`)

釣り乙w こんばんはー

だwいwじwいw







部長「おお、返事が返ってきた」

大介「こうやって視聴者とコメントを通じてやりとり出来るんだ」









だいじいなんさーい?
初々しいwww

wwwwww
爺萌えキター!








”オヤジムカつく“








部長「なんだ!顔も知らない人に向かってムカつくとは!!無礼なヤツめ!!」

大介「お、おじいちゃん!喧嘩腰は良くないよ!!」





Skype

youji さん から 着信です







大介「ワッ!凸だ!」

部長「だから、トツとはなんだ大介。」

大介「突撃の略だよ!多分さっきのコメントした人2が電話しにきたんだ!おじいちゃんが言い返したりするから…」

部長「よし、私に任せろ。」






[応答する]








部長「…もしもし。」

youji「お前がだいじいか?ムカつくんだよ、そういう説教…」

部長「バカモーン!!!目上の人に向かってその口の利き方はなんだ!!」

youji「ひぃっ!!」

部長「だいたいこんな時間までパソコンの前で…だいの男が恥ずかしいと思わんのか!!」

大介「おじいちゃん…」



youji「お、お前に親の事は関係ねーだろ!」

部長「嫌なことがあるんなら面と向かって言えばいいじゃないか!
悪態をついても誰もわかってくれない、まずは自分から心を開いて…」

youji「…そういう説教臭いのが嫌なんだよ!」





部長「…なんだ?何か嫌なことがあったのか?」

youji「…はぁ?」

部長「いいから!過去に嫌なことがあったんだろう。わしでよければ話してみなさい。」

youji「…。実はよ…」






数分後


部長「目上の人は確かに偉そうにモノを言う。しかし、それは君のような若者に過ちを犯して欲しくないという思いからの言葉なんだ。人生の先輩からのアドバイスなんだ。」

youji「うっ…えっぐ…。だいじいさん…オレ…間違ってたよ…!!」


大介「おじいちゃん…。」



部長「落ち着いたら、仕事を探して部屋から出るんだ。外の世界は君の思うほど酷くないからな。」

youji「はい!!!」


大介「ねぇーおじいちゃん。かわってよー」






Skype

通話を終了しました。





部長「頑張れよ、若者…。」

大介「うわぁ!もうほとんど配信時間が残ってない!
…ん?」







感動した。
8888888888
ええ話や
だいじーい!!
ここに神殿を立てよう
888888888888







大介「おじいちゃん!すごい反響だよ!」

部長「な、なんだと!」

大介「おじいちゃんの言葉が視聴者のみんなに届いたんだ!すごいよ!」

部長「そ、そうかぁ…わしが…。」






数日後 派出所




両津「うーん、伸びないなワシの生放送」

本田「やっぱり奇抜な事をしないとウケないんですかねぇ。」

両津「しかし、もうネタがないぞ。室内で花火や、テラ肉丼や、業務用の冷蔵庫やら奇抜なのすでに出尽くしてる。」

麗子「まぁ、そんな事する人がいるの!?」

中川「最近では、SNSなどで、注目を集めたいが為に派手な事をする人が増えてるんですよ。」

両津「さすがにやりすぎとは思うがなワシも。」

両津「最近では、パソコン一つあれば誰でも有名人気取りだ。派手な事をして注目を浴びて、越に浸りたいんだよ。」

中川「ユーザーへの規制も激しくなってますからね。」



両津「そういう意味でパソコンにかじりついてばかりのニートなんかは、もうダメかもわからんな」





部長 ピクッ




部長「そんな事はないぞ!彼らだって人間だ!ちゃんとした指導をしてあげれば更生だって出来るはずだ!」


両津「な、なんですか!部長!いきなり!」

部長「はっ!…いや、そういった人を見下したような発言は良くないぞ!両津!」

中川「そうですよ先輩。」

両津「ううう…以後、気をつけます…。」







それから数日、
前回の説教生放送の反響が大きかった為、孫の大介の勧めにより、
『だいじいの説教生放送』がスタートしたのだった。




部長「夢があるなら、まず自分を信じるんだ!そうすれば親御さんはきっと理解してくれる!」


部長「学校の人間関係は辛いだろう。しかし、社会に出てもそれは同じだ!」


部長「希望を持て!自殺なんか親不孝者のバカがすることだ!」








『最近見なくなった頑固親父の復活』という名のもと、
部長の生放送はメキメキと人気が上昇し、
気がつけば悩める若者の駆け込み寺のようになっていた。










だいじい!俺だ!結婚してくれ!

こんな親父がほしかった…

だいじいのおかげで彼女ができました!
だいじいー!キター!








部長「今日も始まるぞー!だいじいの!説教生放送!!イェーイ!!」





いえーい! いえーい!
888888888888
いえーい!
ーい! いえーい! いえ

イェーイ! 88888







“だいじいのおかげで自信がついて大学合格できたよ!ありがとう!”



部長「おお!そうか!(ジィ〜ン)あの時の女の子か!よし、今日は気分がいい!飲みながら配信するぞ!ワハハハハ!」


数分後


部長「いやー、じつに気分がいい!リスナーのみんなも乾杯だ!
江戸のォ〜♪夜船にゃ〜♪」






ちょwwwジジイwww
おじいちゃんって感じw
だがそれがいい
歌うますぎワロタwww




“歌ってみたあげないのー?”







部長「ん?『歌ってみた』か…」







数日後 派出所

本田「先輩!これ見てくださいよ!」

パソコンを開き動画を再生する




だいじい「千本桜ぁ〜♪夜ニ紛レェ〜♪」

中川「間違いない…部長だ…。」

両津「くそ〜!まさかとは思っていたが部長のやつ!ニヤ動をやってたなんて!
ワシにあれだけ説教しておきながらよくもー!」

麗子「でも、すごいアクセス数ね。」

本田「この『だいじい』さんは最近、若者向けの説教生放送でブレイクしたんですよ。」




バカモーン!!!オマエハドータラコータラ…!




中川「ホントだ!紛れもない部長の怒鳴り声だ。」

麗子「今どきの若者には新鮮なのかもね。」


両津「物珍しさで人が集まってるだけだ!今に廃れる!」

本田「顔出しはNGなんですが、あまりの人気にソロライブやカウントダウンライブの予定もたってるんですよ。」

両津「こんな親父がニヤ動の顔だなんて、世も末だな。」





ガラガラッ




部長「おはよう。みんな!」

一同「おはようございます。」

両津「部長…今年の年末は何か予定でもあるんですか?」




ギクッ!







部長「い、いやー!元日は家族と過ごすが年末は何かと忙しくてな!ワハハハハ!じゃ、私はパトロールに行ってくるぞ!」


チリンチリン


中川「間違いないですね…」

麗子「本当にやるつもりなのかしら…?」

両津「しかし、これだけ人気があれば部長とコラボしてワシも売り出せるじゃないか…」ニヤニヤ


本田「先輩…。」








年末のカウントダウンライブ




部長「みんなー!今日は来てくれてありがとーう!!」



ワァァァーーーー!!!


部長「じゃあ、いつものヤツいくぞ!せーの…」


「「「バカモーン!!!」」」


部長「サンキュー!最高だぜ!!!」







ライブ終了後
楽屋

部長「いやーお疲れ!お疲れ様でした!」

両津「さすがですね!だいじいさん!素晴らしい歌声でした!」

部長「いやー、ありが…って両津!!??」

両津「いやぁ、素晴らしい歌い手さんがいると聞いて飛んでまいりましたよ!実はですね、私とコラボ…」

スタッフ「だいじい さん!今回のライブ収益なんですが…」

部長「ああ、ワシの分はいい。利益分は全て寄付してくれ」

両津「寄付!!??」

スタッフ「わかりました!では、そのように手配しておきます!」


タッタッタッ…


両津「ど、どうして寄付なんか…」

部長「わしは利益なんてどうでもいいんだ。ニヤ動を通じて少しでも多くの若者に希望を持ってもらいたいんだ。」

両津「そ、そんなぁ!」

部長「で、話とはなんだ?両津?」


両津「い、いやぁ…アハハ。すいません!急用を思い出してしまって!失礼します!」
(せっかくコラボして有名になっても、全額募金なんて言われちゃまるで意味がないじゃないか!)










しかし、時代が進むにつれ
当初からスタイルを変えない、だいじいの生放送はしだいに徐々に下火になり、
いつの間にかブームは過ぎ去っていった。






部長「それじゃ、風邪など引かない様に!夜更かしをしすぎるんじゃないぞ!早く寝ろ!じゃあな!」


生放送終了


部長「…五人…か。」







次の日
派出所

部長 ずーーん




麗子「部長さん元気ないわね。」

中川「生放送も最近不定期になりましたもんね」

両津「所詮は一過性のブームだったんだ。調子にのって有名人を気取るからこうなる。」

麗子「でも、なんだかかわいそう。」

両津「流行り廃りが激しい世界だからな。当初からスタイルを変えない部長が悪い。
ま、これで頑固親父というものがリアルにオワコンになったということだ!ガハハハ!」


中川「先輩…!言い過ぎですよ!」




ガタッ!




両津「ゲッ!部長!」

麗子「ほら!両ちゃんが余計な事を言うから!」

中川「ちゃんと謝って…!」

部長「…パトロールに…行ってくる…。」

チリンチリン…

麗子「…本当に落ち込んじゃってるわね。」

中川「後を追いましょう!先輩!」

両津「ああ、あのまま自殺でもされたらかなわん!」










部長「ワシは…オワコンか…。」


身体の細い作業員が資材を運ぶ。


作業員「ううっ…重い…!」



ガッシャーン!



監督「おい新人!いつまでチンタラやってんだ!早くしろ!」

作業員「す、すいません!!」

部長「大丈夫かね?君?」

作業員「おまわりさん…すいません。俺、トロくて…怒られてばかりで…」


部長「目上の者は確かに偉そうにモノを言う。しかし、それは過ちを犯して欲しくないという思いからの言葉なんだ。人生の先輩からのアドバイスなんだ。」


作業員「!!…あなた、だいじい さん?」

部長「ん?その声は…あの時の若者か!!」



駆けつける両津たち



作業員「俺、あの時だいじい さんに話しを聞いてもらえたおかげで…仕事探して…ヒック…。」

部長「そうか、そうか。立派になったなぁ。」



涙をボロボロ流しながら手を取り合う二人




中川「結局、インターネットも人と人の繋がりなんですね。」

両津「頑固親父もまだまだオワコンじゃなかったって事か。」

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こち亀百歌選~主題歌ベストコレクション~

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どーも、みなさん
おんみつです。



突然ですが、

おんみつ




SS(ショートストーリー)用のブログも作っちゃいました!


基本はこち亀仮面ライダーディケイドのSSを中心に、
色々創作していきたいと思いますので、



おんみつの別ブログ、
「おめめのまにまに」と合わせて皆様のお暇つぶしのお手伝いをさせていただければと思います。


不定期更新ですがよろしくお願い致します。



おんみつ


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おーいでてこーい ショートショート傑作選 (講談社青い鳥文庫)

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